メニューにジャンプコンテンツにジャンプ

トップページ > 疫学・予防研究部 > 研究紹介 > 残業時間と高血圧、糖尿病との関係―断面調査の結果から―

残業時間と高血圧、糖尿病との関係―断面調査の結果から―

職域多施設研究(J-ECOHスタディ)に参加の12社のうち、2008年(または2010年)に健診を受診した4社に勤める16~83歳の40,861名(男性35,170名、女性5,691名)*について、残業時間と糖尿病、高血圧との関連を調べた結果を発表しましたので紹介します(PLOS ONE 2014年9巻5号e95732。Chronobiology International 印刷中)。
* 糖尿病に関する調査。高血圧に関する調査では52,365名(男性43,906名、女性8,459名)。 

一般に、長時間の残業は短時間睡眠や運動不足、ストレスと関係するため、糖尿病や高血圧のリスクを高めると考えられています。しかし、これまでに行われた疫学調査の結果は一致していません。また、月あたり100時間を超える長い残業の影響は明らかではありません。本研究では、日本の大規模勤労者集団において糖尿病および高血圧と残業時間との関連を調べました。    

月あたり99時間までは、残業時間が長いほど高血圧や糖尿病を持つ人の割合は少なかった

月45時間未満の残業を基準として、残業時間ごとに各疾病を持つオッズ比を多重ロジスティック回帰分析により計算しました。性別や年齢、喫煙、肥満度といった糖尿病や高血圧に影響しうる要因は統計的に調整しました。その結果、糖尿病では、月99時間まで、残業時間が長いほど糖尿病を持つオッズ比は低くなりましたが、月100時間以上の残業におけるオッズ比は月45時間未満の残業とほぼ変わりませんでした(左下図)。高血圧についても、残業時間が長いほどオッズ比は低くなりましたが、糖尿病と異なり、月100時間以上の残業で最もオッズ比が低くなりました(右下図)。 

図 月あたりの残業時間ごとの糖尿病(左下図)と高血圧(右下図)のオッズ比
kenkyu_shoukai_4_1.jpg

今回の研究では、糖尿病と高血圧では傾向は若干異なるものの、残業時間が長くてもいずれの疾患の割合も高まってはおらず、高血圧はむしろ低下する傾向を認めました。残業とともにこれらの疾病のリスクが高まるとする研究報告がある一方、今回と同様の結果も報告されています。残業時間が長い人では1日あたりの総身体活動量が高かったとの報告があり、残業時間が長いほど、高血圧に対して予防的である身体活動量によって血圧が下がったのかもしれません。今回は一時点での調査結果であり、因果関係がはっきりしないため、長時間労働と糖尿病や高血圧のリスクとの関連については、今後、縦断的に検証する必要があります。

発表論文

残業時間と糖尿病
Kuwahara K, Imai T, Nishihara A, Nakagawa T, Yamamoto S, Honda T, Miyamoto T, Kochi T, Eguchi M, Uehara A, Kuroda R, Omoto D, Kurotani K, Pham NM, Nanri A, Kabe I, Mizoue T, Kunugita N, Dohi S; Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study Group. Overtime work and prevalence of diabetes in Japanese employees: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study. PLOS ONE 2014; 9(5): e95732.

残業時間と高血圧
Imai T, Kuwahara K, Nishihara A, Nakagawa T, Yamamoto S, Honda T, Miyamoto T, Kochi T, Eguchi M, Uehara A, Kuroda R, Omoto D, Nagata T, Pham NM, Kurotani K, Nanri A, Akter S, Kabe I, Mizoue T, Sone T, Dohi S; Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study Group. Association of overtime work and hypertension in a Japanese working population: A cross-sectional study. Chronobiol Int. in press