メニューにジャンプコンテンツにジャンプ

トップページ > 疫学予防研究部 > 研究紹介 > 脂質の種類と糖尿病

脂質の種類と糖尿病

「リノール酸やオレイン酸など植物由来の脂肪酸を多く摂取している人は摂取が少ない人に比べて糖代謝異常の割合が約50%低い」という栄養疫学調査の結果を米国の学術雑誌PLOS ONEに発表しました。

これまでに、欧米での研究から脂質の種類(脂肪酸1 ) )と糖尿病との関連が報告されていますが、n-3系脂肪酸の豊富な魚を日常的に摂取している日本人集団を対象とした研究はほとんどありません。本研究では、脂肪酸の摂取と糖代謝異常との横断的な関連を職域集団において検討しました。

古河栄養健康研究では、平成24年の健康診断時に質問紙調査を実施し、同意の得られた18歳から69歳の参加者のうち、がん、循環器疾患、肝疾患、腎疾患の人を除く、1065名を解析対象としました。食事に関する情報は簡易型自記式食歴法質問票(BDHQ:58食品項目の固定量式食事質問票)により評価しました。各脂肪酸摂取量(%エネルギー)により対象者を3群に分けて、脂肪酸摂取量と糖代謝異常2 )  との関連を調べました。また、主成分分析により、15個の脂肪酸3 )摂取量から脂肪酸摂取パターンを抽出し、糖代謝異常との関連を検討しました。分析にあたって、脂肪酸摂取以外の糖代謝異常に関連する要因(性別、年齢、肥満度、喫煙、飲酒、身体活動、高血圧歴、脂質異常症歴、糖尿病の家族歴、エネルギー摂取量、たんぱく質摂取量)の影響をできるだけ取り除きました。

その結果、図1に示すように、多価不飽和脂肪酸、特にn-6系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い人で糖代謝異常が少ないことが分かりました。n-6系多価不飽和脂肪酸摂取量が最も多い群(中央値:5.8%エネルギー)では最も少ないグループ(中央値:3.8%エネルギー)に比べて糖代謝異常のオッズ比が55%低いという結果でした。また、個別の脂肪酸については、n-6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸および一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸の摂取量が多い人で糖代謝異常が少ないことが分かりました。   一方、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコタペンタエン酸(EPA)については統計学的に意味のある関連はみられませんでした。

sub5-140416_1_1.jpg

主成分分析の結果、「魚油パターン」「肉由来パターン」「植物油パターン」の3つの脂肪酸摂取パターンが抽出されました。図2に示すように、植物由来の脂肪酸である、オレイン酸、α-リノレン酸、リノール酸の高摂取に特徴づけられる「植物油パターン」傾向が強いと糖代謝異常の割合が少ないことが分かりました。

sub5-140416_2_1.jpg

欧米における先行研究でも、リノール酸の摂取量が多い人では糖尿病のリスクが低いことが一貫して報告されています。今回の結果は、我々が以前報告した、血清コレステロールエステル中のリノール酸とインスリン抵抗性との負の関連とも一致しています。また、「植物油パターン」で糖代謝異常が少ないという結果も、植物油との関連を調べた欧米での研究と一致しており、植物由来の脂肪酸が糖代謝に好ましい効果がある可能性が示唆されます。一方、魚に豊富なDHAとEPAに関する16件の前向き研究をまとめたメタ解析では、糖尿病リスクとの明らかな関連は見られません。しかしながら、アジアでの研究に限定すると糖尿病リスク低下との関連が認められおり、その理由には主に摂取する魚の種類や調理方法の違いのためではないかと議論されています。

本研究の結果より、摂取エネルギーあたりの植物油由来の脂肪酸の割合が高いことと糖代謝異常が少ないことが関連していることが示唆されます。しかしながら、植物油を取り過ぎることでエネルギー過剰になると糖尿病のリスクは高まります。脂質の摂り過ぎには注意が必要です。

今回の研究で用いたBDHQによる各脂肪酸摂取量(%エネルギー)は、より正確な食事記録調査から算出された値と対比すると、10数パーセントの違いがあるので、研究結果に示した摂取量は参考値として参照ください。

1)脂肪酸:飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に大別され、多価不飽和脂肪酸は、n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸に分けられる。

2)糖代謝異常:次のうち少なくとも1つに該当する人
  糖尿病の既往;糖尿病の薬の服用;空腹時血糖値110mg/dl以上; ヘモグロビンA1c(NGSP値)6.0%以上

3)15個の脂肪酸
  飽和脂肪酸:パルミチン酸、ステアリン酸
  一価不飽和脂肪酸:パルミトレイン酸、オレイン酸
  n-3系脂肪酸:α-リノレン酸、ステアリドン酸、サペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸
  n-6系脂肪酸:リノール酸、γ-リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸


 

日本人の食事摂取基準 [2010年版]では、生活習慣病の一次予防を目的として目標量が定められている。

脂質の食事摂取基準 (目標量)(出典:日本人の食事摂取基準 [2010年版])  

  • 脂質の総エネルギーに占める割合(%エネルギー)
      18歳から29歳  :20以上30未満
      30歳以上     :20以上25未満
  • 飽和脂肪酸の総エネルギーに占める割合(%エネルギー)
      18歳以上       :4.5以上7.0未満
  • n-6系脂肪酸の総エネルギーに占める割合(%エネルギー)
      18歳以上       :10未満
  • n-3系脂肪酸の摂取量(g/日)
      18歳から29歳  :男性 2.1以上; 女性 1.8以上
      30歳から49歳  :男性 2.2以上; 女性 1.8以上
      50歳から69歳  :男性 2.4以上; 女性 2.1以上
      ※EPAおよびDHAを1g/日以上摂取することが望ましい。

【発表論文】

Kurotani K, Kochi T, Nanri A, Tsuruoka H, Kuwahara K, Pham NM, Kabe I, Mizoue T. Plant oils were associated with low prevalence of impaired glucose metabolism in Japanese workers. 2013. PLoS ONE 8(5): e64758.