数理疫学研究室|臨床研究センター
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数理疫学研究室

主要スタッフ

  • 室長 尾又 一実

研究紹介

数理モデルを構築して医療データを科学的に分析し、病気のメカニズムの解明、発病に対する対策法の開発を目指しています。
具体的には、疾病(主に感染症)と社会構造との関係を研究していますが、人の社会構造を表す数理モデルは、分子ネットワークで構成される“分子の社会”にも適用でき、分子シグナル・パスウェイの数理モデルの研究も行っています。

コンパートメント・モデルによる感染症流行の解析

2007年3月以降、国内で麻疹(はしか)の流行があったことはまだ記憶に新しいと思います(注1)。このときの流行の特徴は、成人(15歳以上で定義)麻疹の患者数の増大でしたが、1978年に麻疹の集団予防接種が開始されて以降、同じ特徴を持つ流行が1991年、2001年にも発生していることは、あまり知られていない、あるいは忘れられているように思われます。本研究では、なぜこれらの年に麻疹の流行が起きたのかを、数理疫学の視点から人口動態を分析することによって探ります(注2)。麻疹流行の標準モデルとされるSEIR(Susceptible-Exposed-Infectious-Recovered)コンパートメント・モデル(注3)によって、日本における集団予防接種開始後の流行パターンがどこまで再現でき、流行の発生機構がどこまで明らかにできるかを示します。
この研究結果に基づいて、将来の流行を予測することを試みます。

  1. K.YamadaandH.Okada,NipponRinsho65Suppl.3,364-367(2007).
  2. K.Omata,tobesubmitted.
  3. M.AndersonandR.M.May,InfectiousDiseasesofHumans(Oxford,Claredon,1991).

ウェーブレット解析によるインフルエンザ流行の時空解析

インフルエンザという感染症は、病原体であるウイルスが抗原変異を頻繁に繰り返して毎年人類を襲い、多くの人々を感染に巻き込みます。時に、過去には人類を襲うことのなかった、従来とは全く異なる遺伝子を持つウイルスが突如人類を襲い始め、世界的な規模の感染・流行を引き起こします(注1)。本研究では、インフルエンザ流行の特徴を明らかにするために、過去に日本で収集されたインフルエンザの疫学データを、時系列的(週別)かつ地域別(都道府県別)に解析した結果を紹介します。ウェーブレット(注2)によるデータ解析を行った結果、流行の強さと早さには相関があることが見いだされました。特に、首都圏とそれ以外の地域での流行の早さの相対的な違いが、全国の流行の強さに大きな影響を与えることがわかっています(注3)。

  1. 岡田晴恵、田代眞人『感染症とたたかう』(岩波新書、2003).
  2. C.TorrenceandG.P.Compo,Bull.Am.Meteor.Soc.79,61(1998).
  3. K.Omata,Y.TakahashiandT.Shimbo,13thInternationalCongressonInfectiousDiseases(2008),

http://ww2.isid.org/Downloads/13th\_ICID\_AbsPosters.pdf.

インフルエンザ流行規模の分析

いくつかの人口統計学的データセットを使って、インフルエンザ感染者報告数と死亡者報告数との間の関係の特徴を調べています。人口に対するそれぞれの割合の年毎のデータは、指数0.95(±0.10)のベキ乗則分布に従っており、2009年4月末から流行した新型株のインフルエンザA(H1N1)もこの分布に含まれることを示すことができます。

生体分子の分子シミュレーション

分子動力学シミュレーションの方法を用いて、志賀毒素(ベロ毒素)、コレラ毒素、百日咳毒素、炭疽菌毒素など、4次構造(サブユニット構造)をとる細菌毒素に対して、設計したリガンドが、(1)どれくらい安定に結合するか、(2)結合したときの構造、(3)リガンドが結合した部位が毒素の働きを妨げる部位か、を明らかにし、リガンドが、(4)薬物として利用できるか、(5)設計したリガンドと同様に毒素の働きを阻害し、技術的に作成が容易なより効率の高いリガンドを設計することは可能か、という点について検討しています(注1)。
SuperTwigは西川ら(注2)によって開発されたリガンドの新しい構造ですが、レセプターに結合した複合体を結晶化することが困難です。本研究は、SuperTwigの結合様式を分子シミュレーションによって明らかにし、創薬に貢献します。

  1. K.Nishikawa,M.Watanabe,E.Kita,K.Igai,K.Omata,M.B.YaffeandY.Natori,FASEBJ.20,E2077(2006).
  2. K.Nishikawa,etal.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,7669-7674(2002)

分子シグナル伝達の数理

生物の体内では、さまざまな分子が複雑に相互作用して、生命活動に必要な機能を生み出しています。このような分子間相互作用ネットワークは、“分子で構成される社会”と見なすことができ、コンパートメントモデルと類似の方程式で扱うことができます。本研究では、病気に関わるいくつかの分子シグナル・パスウェイについて分析を行っています。

  1. G.NicolisandI.Prigogine,Self-organizationinnonequilibriumsystems(Wiley1977).
  2. A.Goldbeter,Nature420,238-245(2002).
  3. B.NovakandJ.J.Tyson,Nat.Rev.Mol.CellBiol.9,981-991(2008).