メニューにジャンプコンテンツにジャンプ

トップページ > 勤労者の長期病休のリスク増加に喫煙が関連していることを明らかにしました

勤労者の長期病休のリスク増加に喫煙が関連していることを明らかにしました
―70,896人の職域大規模コホート研究(J-ECOHスタディ)―

2020年4月13日

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)は、関東・東海地方に本社がある企業10数社の従業員約10万人を対象にした多施設共同コホート研究を行っています。今般、このコホートにおいて、2011年度に定期健康診断を受診した70,896人を最大5年間追跡したデータを分析し、長期病休(連続30日以上の病休)のリスク増加に喫煙が関連していることを明らかにしました。

背景

タバコの煙には約250種類の有害物質が含まれ、がん・循環器疾患・2型糖尿病など様々な病気のリスクが喫煙によって高まることが明らかになっています。本研究では、働く人における喫煙に伴う疾病負担を評価するため、病気を理由とした休業(以下、病休)との関連を調べました。病休は、企業にとって人的資源の損失、生産性低下、社会保障費の増大を意味する指標です。

これまでにも喫煙が病休のリスクを高めることを示唆する報告はありますが、客観情報に基づいて病休を把握した研究や、病休の原因別に調べた研究は少数です。疾患ごとに評価することで、喫煙と病休の関連が主にどの疾患によるものかを理解することができます。また、喫煙本数による病休リスクの違いもはっきり分かっていません。近年、喫煙量が少なくても健康リスクが上昇するという報告が増えており、病休についても少量喫煙との関連を明らかにする必要があります。

以上を踏まえ、職域多施設研究班は喫煙習慣と長期病休(連続30日以上の病休)との関連を前向きに検討しました。

方法

  1. 対象:J-ECOHスタディ参加施設の労働者のうち、2011年度に職域定期健康診断を受診した20~59歳の70,896名。
  2. 追跡期間:最大5年間(2012年4月~2017年3月)
  3. 喫煙の指標

    ①  主たる解析: 非喫煙者、過去喫煙者、現在喫煙者
    ②  喫煙本数の解析:  非喫煙者、現在喫煙者1日1~10本、11~20本、21本以上

  4. 長期病休
    コホート内で病休の登録制度を構築し、参加企業の産業医から長期病休(連続30日以上の病休)について定期的に報告してもらいました。病休の原因となった疾患は、国際疾病分類(ICD-10)に基づいて分類しました。
  5. 統計解析:コックス比例ハザードモデルを用いて、喫煙と長期病休のリスクの関連を検討しました。2011年時点の企業、性、年齢、肥満度(body mass index)、高血圧、糖尿病、脂質異常症を解析で考慮し、これらの要因による影響をできるだけ取り除きました。
  6. 長期病休の原因となった疾患別(身体疾患、精神疾患、事故・外傷)に解析しました。
  7. 喫煙本数と病休の関連については、非喫煙者及び喫煙本数を回答した現在喫煙者(総計56,116名)について解析しました。

結果

勤労者の長期病休のリスク増加に喫煙が関連                             図1:喫煙状況と長期病休リスクの関連

図1

  • 非喫煙者に比べて、現在喫煙者の長期病休のリスクは1.31倍でした。原因疾患別に解析すると、身体疾患による長期病休のリスクは1.42倍、事故・外傷による長期病休のリスクは1.84倍でした(図1)。身体疾患をさらに細かく分けると、がんは1.49倍、循環器疾患は2.09倍でした。
  • 過去喫煙者においては長期病休リスクの有意な上昇は認められませんでした(図1)。ただし、がんについては、統計学的に有意でないものの、過去喫煙者でリスクが上昇していました。
勤労者の長期病休のリスク増加に喫煙が関連                            図2.喫煙本数と長期病休リスクの関連

図2

  • 喫煙本数と長期病休の関連を調べると、1~10本の群でも長期病休のリスクが1.29倍と有意に上昇しており、11~20本では1.27倍、21本以上では1.38倍でした(図2)。疾病ごとにみると、1~10本の群で長期病休のリスクが有意に上昇していたのは、循環器疾患(2.47倍)と事故・外傷(2.03倍)でした。

解説

  • 本研究より、非喫煙者に比べて、喫煙者の長期病休リスクは有意に上昇していることが分かりました。疾病別にみると、身体疾患による長期病休(特にがん、循環器疾患)、事故・外傷による長期病休のリスクが上昇していることが分かりました。
  • 過去喫煙者においてはリスクの上昇は認められませんでした。禁煙により長期病休のリスクが低減することが示唆されます。ただし、がんについては過去喫煙者でもリスクが上昇する傾向でした。
  • 喫煙本数が1~10本の群でも長期病休リスクが上昇していたことは、喫煙量に安全な水準はないとする報告(たとえばInoue-Choi et al. JAMA internal medicine 2017)と一致するものです。
  • 2020年4月より改正健康増進法が施行され、職場などでの屋内禁煙が義務化されました。こうした動きを受け、労働者における喫煙に伴う疾病負担を低減するため、職域における一層の対策推進が求められています。

掲載誌

Hori A, Inoue Y, et al. Smoking and long-term sick leave in a Japanese working population: Findings of the Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study. Nicotine & Tobacco Research. 2019年11月(電子先行出版)
URL:https://academic.oup.com/ntr/advance-article/doi/10.1093/ntr/ntz204/5611317

J-ECOHスタディについて

職域における多施設共同研究で、関東・東海に本社がある12企業(約10万名)が参加した大規模なコホート研究です。事務局をNCGM疫学・予防研究部に置いています。働く世代における生活習慣病や作業関連疾患を予防し、職域健康診断の有効性や効率を高めることを主な目的としています。2012年度に研究を開始し、定期健康診断や循環器疾病・死亡・長期病休に関する登録を行っています。併せて、脳卒中及び心筋梗塞に関する症例対照研究や食生活や運動に関するサブスタディを進めています。2018年度からの第3フェーズでは、働き方や新型タバコに関する調査に取り組んでいます。

発表論文:http://www.schoolhealth.jp/deih/gyosekitop-J-ECOH.html

プレスリリースに関するお問合せ先

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
臨床研究センター 疫学・予防研究部 上級研究員
担当:井上 陽介(いのうえ ようすけ)
電話:03-3202-7181(内線 2859)
E-mail:yoinoue@hosp.ncgm.go.jp
〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:西澤 樹生(にしざわ たつき)
電話:03-5273-5258(直通) <9:00~17:00>
E-mail:press@hosp.ncgm.go.jp