患者の方へ

くすりと治験

私たちは、病気になったりケガをすると、「くすり」を飲んだり塗ったりします。「くすり」により、それまで治らなかった病気が治るようになったり、手術をしなくてもすむようになりました。 しかし、今も健康や生命を脅かすさまざまな病気があり、それらに対して有効な新しい「くすり」を待ち望んでいる患者さんが数多くいます。 新しい「くすり」は、研究者や医師だけでは世に送り出すことはできません。
以下にあるように、患者さんのご理解とご協力がぜひとも必要なのです。

  1. 1くすりが世に出るまで

    「くすり」は多くの「くすりの候補」について、有効性(効果)と安全性(副作用)が調べられ、人々の命や健康に役立つことが証明されたものだけが国(厚生労働省)から「くすり(医薬品)」として認められ、世に出るようになります。
    まず初めは、製薬企業等の研究室で化学的に合成されたり、天然に存在している物質から抽出されたりした何百何千という化合物の中から、試験管などを用いた実験により、目的とする作用を持ったいくつかの「くすりの候補」を選び出すことから始まります。
    次のステップは動物実験です。ネズミ・ウサギ・イヌさらにはサルなどを使って、有効性(効果)と安全性(副作用)や安全域(毒性の有無や程度はどうか等)をくわしく調べます。
    そして最後に、「くすりの候補」が果たして人でどのような有効性(効果)と安全性(副作用)を示すかが調べられます。人と動物では、それらの現れ方が違うからです。
    たとえば、動物ではよく効くのに人にはそれほど効かなかったり、動物では安全なのに人では副作用を起こすといったことがあります。それは人と動物では体のしくみが違っているためで、動物実験の結果をそのまま人に当てはめることはできないのです。

  2. 2くすりの開発に欠かせない治験

    もし、人での有効性(効果)と安全性(副作用)を調べずに、「くすり」として広く使われるようなことになれば、病気を治せないばかりか、多くの患者さんに思わぬ副作用を起こすことにもなりかねません。
    「くすりの候補」が「くすり」となるためには、どうしても人において有効性(効果)と安全性(副作用)を調べなければなりません。
    人での有効性や安全性について調べることを一般に「臨床試験」と言いますが、「くすりの候補」を国(厚生労働省)から「くすり」として認めてもらうために行う臨床試験のことを、特に「治験」と呼んでいます。

  3. 3治験を行なうときの主なルール

    治験では、「くすりの候補」を人に試すことになるため、治験に参加していただく方の人としての権利(人権)や安全が最大限に守られなければなりません。それと同時に、「くすりの候補」の有効性(効果)と安全性(副作用)は科学的な方法で正確に調べる必要があります。そのため、治験の実施に関して、大変厳格なルール「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCPと呼ばれます)」が国によって定められています。

    1. 治験を行う病院は、十分な検査設備があり、専門の医師をはじめとして、薬剤師・看護師等のスタッフが充分に揃っており、緊急時には直ちに必要な処置が取れるようになっております。
    2. 製薬企業より治験の依頼を受けた場合は、治験の計画の内容が治験に参加される方の人権や安全の保護および科学性等において問題がないかどうかを審査する病院内の独立の委員会(国立研究開発法人国立国際医療研究センター では治験等審査委員会と呼ばれます)の承認と当センター理事長の了承を得ています。
    3. 当センター治験等審査委員会は、治験に参加される方の人権と安全を保護する見地から、当センターとは利害関係のない人や医学、薬学等の専門家以外の人も委員として加わっています。またこの委員会は、治験中に起こった副作用などについて報告を受け、治験を継続して行ってよいかどうかについても審査しています。
    4. 治験を行う医師は、治験を開始する前に、治験に参加していただきたい方に、治験の目的、方法、予想される効果や起こるかもしれない副作用等を十分に説明したうえで、文書による同意を得なければなりません。
    5. 治験に参加された方にもし重い副作用が起きたときは、病院から直ちに製薬企業に連絡され、厚生労働省に報告されます。
    6. 治験に関連して副作用が起きたり健康を害されたような場合は、必要な治療と適切な補償が行われます。
  4. 4治験の3つのステップ

    治験は通常3つのステップ(相)を踏んで進められます。

    1. 第Ⅰ相試験

      臨床薬理試験

      〔原則健康な成人対象〕
      「くすりの候補」の安全性(副作用)と体内での動きを調べます。

    2. 第Ⅱ相試験

      探索的試験

      〔患者さん対象〕
      「くすりの候補」が病気に対してどのような有効性(効果)があるのか、安全性(副作用)はどの程度か、どのような使い方(投与量・期間など)をしたらよいかを調べます

    3. 第Ⅲ相試験

      検証的試験

      〔患者さん対象〕
      「くすりの候補」の有効性(効果)と安全性(副作用)、使い方を最終的に確認します。

    独立行政法人 医薬品医療機器総合機構の審査を経て、国(厚生労働省、薬事・食品衛生審議会)が審議し、承認されます。

    注:第II相試験・第III相試験では、「くすりの候補」の有効性(効果)、安全性(副作用)、使い方などを確認するために「くすりの候補」とプラセボ(有効成分が入っていない、見た目や味などの点で「くすりの候補」と区別のつかないもの)や現在使われている標準的な「くすり」と比較したりあるいは「くすりの候補」の投与量の間での比較を行います。治験を科学的に行う上で、こうした比較試験は大変重要です。

    いずれの比較試験もかたよりがなく公平に行われなければなりません。
    例えば、一方に重症の患者さんが多く、他方に軽症の患者さんが多い、あるいは先入観が入る、といったことのないようにする必要があります。そのために、担当の医師や患者さんの先入観が入らないように、どちらのくすりが使われているのかわからないようにする方法(二重盲検比較試験と言われています)がとられることも少なくありません。

  5. 5治験への参加を依頼されたら

    インフォームド・コンセント

    あなたは「インフォームド・コンセント」ということばをお聞きになったことがありますか。
    「インフォームド・コンセント」とは、患者さんが治療を受けるに当たって「自分の病気のことやその治療方針について、医師等から十分説明を受け、患者さんが説明の内容をよく理解し納得したうえで、患者さん自身の意思で治療を受けることに同意(承諾)する」という意味です。
    治験においては研究を伴い試験的側面もあるだけに、参加していただく患者さんの人としての権利(人権)や安全を尊重し保護する意味で欠かすことのできない重要な手続きです。
    では、治験における「インフォームド・コンセント」はどのような手順で行われるのでしょうか。
    まず、治験を行う医師が、治験の目的に合うと考えられる患者さんに、治験に協力し参加していただけるかどうかについて、おたずねします。そのときには、治験の目的、方法や治験に使用する「くすりの候補」の性質(予想される有効性(効果)と安全性(副作用))などが書かれた「説明文書」が手渡され、内容が詳しく説明されます。
    わからないことがあれば、どんなことでも遠慮なく質問してください。十分に理解できたら、治験に参加するかどうかを、あなた自身の自由な意思で決めてください。誰からも強制されることはありません。
    治験に参加すると決めた場合には、同意文書に署名をお願いいたします。ただし、説明を受けたその場ですぐに署名しなくても差し支えありません。「説明文書」を持ち帰ってご家族等と相談するなど十分に検討してからでもかまいません。その後、説明をした医師に自分の意思を伝えてください。

    CRCの仕事とは?

  6. 6おわりに

    治験は、参加される患者さんの人権と安全の保護に最大限配慮しつつ、「くすりの候補」の有効性(効果)と安全性(副作用)などを慎重に調べながら行われます。