メニューにジャンプコンテンツにジャンプ

トップページ > 疫学・予防研究部 > 研究紹介 > 動脈硬化性疾患リスク因子集積に対する BMI、腹囲、腹囲身長比のスクリーニング精度の比較

動脈硬化性疾患リスク因子集積に対する BMI、腹囲、腹囲身長比のスクリーニング精度の比較

職域多施設研究(J-ECOHスタディ)に参加の12社のうち、2008年(または2009、2010年)に健診を受診した9社に勤める15~84歳の53,710名(男性45,618名、女性8,092名)について、    BMIや腹囲、腹囲身長比における動脈硬化性疾患のリスク因子集積のスクリーニング精度を調べた結果を発表しましたので紹介します(Circulation Journal 2014年78巻5号1160-8ページ)。

これまでに、腹囲身長比(腹囲[cm]÷身長[cm])は、BMI(体重[kg]÷身長[m]2 )や腹囲よりも動脈硬化性疾患リスク因子集積のスクリーニング精度が優れているとの報告がありました。しかし、これらの研究では年齢が考慮されていませんでした。本研究では、年齢を調整し、各身体指標の動脈硬化性疾患リスク因子集積のスクリーニング精度を比較しました。

年齢を考慮すると男性ではいずれの身体指標もスクリーニング精度は同程度

スクリーニング検査等の精度を評価するためのROC分析を用いて、動脈硬化性疾患リスク因子集積(1.血圧高値、2.高血糖、3.脂質異常症のうち2項目以上に該当)の有無にもとづく各身体指標のROC曲線下面積a を算出しました。その結果、男女ともに年齢調整前は腹囲身長比においてこの面積が最も大きかったですが、年齢調整後のROC曲線下面積は、男性ではいずれの身体指標も同程度、女性ではBMIで他の身体指標よりもわずかに大きくなっていました(表1)。

表1 各身体指標の動脈硬化性疾患リスク因子集積の有無にもとづくROC曲線下面積
kenkyu_shoukai_3_1.jpg

動脈硬化性疾患リスク因子集積の有無の判定に適した身体指標のカットオフ値は性や年齢により異なる

次に、肥満や腹部肥満を判定するのに一般的に用いられているカットオフ値を動脈硬化性疾患リスク因子集積の有無の判定に用いた場合の感度bおよび特異度cを調べました。 BMIや腹囲による判定では年代が高くなるほど感度が低下したのに対し、腹囲身長比は年代によらず一定でした(表2)。 男性において、60歳未満ではBMI ≥23 kg/m2 、60歳以上では腹囲身長比 ≥0.5のカットオフ値を用いた場合に、動脈硬化性疾患リスク因子集積を検出する感度が最も高くなっていました(表2)。      

表2 一般的なカットオフ値による動脈硬化性疾患リスク因子集積の有無検出における感度および特異度(男性)
kenkyu_shoukai_3_2.jpg

今回の研究では、男女ともにBMI、腹囲、腹囲身長比の動脈硬化性疾患リスク因子集積のスクリーニング精度は、年齢を考慮するとほぼ同程度であることがわかりました。また、性や年代により、一般的に用いられている身体指標のカットオフ値の動脈硬化性疾患リスク因子集積の検出における感度や特異度が異なっていたことから、それぞれのカットオフ値の特徴を理解し、ターゲットとする集団に適したカットオフ値を選択することが重要であると考えられます。


用語の説明

aROC曲線下面積:ある検査における感度と特異度の関係を示すROC曲線の曲線下面積。この値が1に近いほど検査の精度が高い。
b感度:ある疾病を持つ人のうちスクリーニング検査で陽性と判定される人の割合。
c特異度:疾病を持たない人のうちスクリーニング検査で陰性と判定される人の割合。

発表論文

Hori A, Nanri A, Sakamoto N, Kuwahara K, Nagahama S, Kato N, Fukasawa K, Nakamoto K, Ohtsu M, Matsui A, Kochi T, Eguchi M, Imai T, Nishihara A, Tomita K, Murakami T, Shimizu C, Shimizu M, Miyamoto T, Uehara A, Yamamoto M, Nakagawa T, Yamamoto S, Honda T, Okazaki H, Sasaki N,    Kurotani K, Pham NM, Kabe I, Mizoue T, Sone T, Dohi S; Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study Group. Comparison of body mass index, waist circumference,    and waist-to-height ratio for predicting the clustering of cardiometabolic risk factors by age in Japanese workers--Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health study. Circ J 2014; 78(5): 1160-8.